先日、電動歯ブラシの記事を書いたのですが、その中で伊丹十三の映画「あげまん」で宮本信子が津川雅彦に歯の磨き方を教えるシーンについて触れました。
で、youtubeでも伊丹映画の予告編などアップされてて見てたら、久しぶりに観たくなり、キャビネットの奥に長年仕舞われてた伊丹十三DVDコレクションを引っ張り出してきた。
これ昔買ったので値段は覚えてないけど、今アマゾンで観たらとんでもなくプレミアついてました。
ということで大好きな作品「タンポポ」から見ることに。
グルメ映画といえば「大統領の料理人」、「バベットの晩餐会」、「南極料理人」、「武士の献立」といろいろ観ましたけど、この映画を超える映画は現状まだないと思っています。
「タンポポ」はこちらからポチれますが、プレミアついてて高い・・・(2人で映画館のプレミアシートで見たと思えばいいのか)
ところで「タンポポ」、宮本信子が経営するつぶれそうなラーメン店を山崎努、渡辺謙たちが立て直すという本筋があるのですが、複数のサブストーリーが映画全体を不思議な空間に作り変えています。
白服の男(役所広司)、超グルメで歌が上手いホームレスたち、フランス料理店での接待、歯の痛い男、死にかける女・・・・どれもひとつひとつ本当に悶絶しそうなほどに面白いのですが、僕が十数年ぶりにこの映画を観て、あ!!!と思ったことがあります。
それは蕎麦屋で餅を喉につまらせる老人(大滝秀治)の話。たまたまそこに居合わせた宮本信子に掃除機で吸い取ってもらい、一命を取り留めるというもの。
メイキング映像がyoutubeに出てたのでそちらをご覧ください。49:00からです。
その蕎麦屋、東京都港区赤坂にある「室町 砂場」なのです。
僕は以前近くに住んでたこともあり、そのお店を初訪問した時のメルマガ記事があります。そこである事件は起きました・・・・
以下にコピペしますね。長いです。
(ここから)
雨の土曜日の昼、カミさんと長男を連れて自宅から歩いて10分程のところにある老舗の蕎麦屋「室町砂場」に行ったんです。
赤坂に事務所を構えて8年目。以前から行きたいと思ってたところですが、閉店時間が早いので今まで行けなかったんです。
赤坂通りと並行して走る裏通りに面してますが、見た目はまさに江戸時代の蕎麦屋のごとく木造のほったて小屋という感じのアルカイックかつアダルトな外観。
日中、店の前を車で通ると、黒塗りのハイヤーがずらりと運転手付きで待っているときがあります。ほったて小屋のようなアルカイックな蕎麦屋の前にですよ。。
別の日などはマイバッハやファントムが停まってる、重役御用達のような、あるいは暗黒街の顔役が集まるような怪しげな雰囲気を醸し出しています。
で店に入ると予想通り狭い。4人がけのテーブルが4卓、奥には小上がりがあり、4人が座れるテーブルが2卓。
土曜のお昼からほぼ満席。
玄関に一番近いテーブルだけが空いてたのでそこに我々家族3名は着席。(長男とカミさんと。娘はこのとき友達と自宅でマック)
まずはビール大瓶と、蕎麦屋の定番、板わさ、玉子焼きをオーダー。
隣の4人がけのテーブルは30代と覚しき男女2人が向かい合って座っている。彼らもビールを飲んでます。
店が狭いのでこちらのテーブルと隣のテーブルはくっついています。
板わさは小ぶりだけど美味いし、玉子焼きはとろとろで甘く大根おろしを乗せて食べます。玄関の表にはどんどんお客さんが並んできます。
すると、女性店員が、隣の男女に「相席になります、すみません」と声をかけています。
「ん?この狭い空間に誰か来るのか?」
ここから物語は始まります。(脚色ナシの実話です)
店の奥、小上がりの前の4人掛けテーブルに一人で座ってた70代後半と覚しきご老人が、正面のカミさんと隣のテーブルの男性の間に空いていた椅子に移動してひょこんと座りました。
図示するとこんな感じ。
ご隠居か。初代水戸黄門、故東野英次郎氏になんとなく似てる・・・・
彼が奥のテーブルにいたのはなんとなく視線の隅で捉えていましたがその彼がカミさんの隣に移ってきたわけです。
一緒に移動してきたのは燗酒の徳利と猪口、そしてお通しだけ。
ただその瞬間僕が見逃さなかったのは、彼のお通しは、イクラおろしだったのです。(僕はイクラおろしが大好き。もしメニューに掲載されていれば絶対に見逃すはずがないのです。)
で僕らのお通しはというと、
そら豆2つ(爆)
(常連は別待遇か?)と思って、斜め45度の至近距離(1m弱か)に座る、ご隠居の格好を改めてチラチラ観察すると、麻の白いスーツを軽く着流しています。
左胸に小さなシルバーのペンダントがキラキラ光っています。
で、酒だけをチビチビ飲んでます、お通し以外のつまみもとらずに。
(なるほど、さすがご隠居、昼の蕎麦屋でなかなか真似できない風情を醸し出してるわ)
それ以上は詮索せず、目の前のかまぼこにわさびをつけて口に運び、ビールを飲みます。
で、カミさんや息子とこれという話題もなく、話してました。息子は友達から携帯にLINEがひっきりなしに入ってきてます。
さてさらにつまみを注文するか、あるいはさっさと蕎麦を食べて帰るかなどと考えていたら突然、隣から
「ぼっちゃんカワイイねー、目がクリっとしてて」と
かなりドスの効いた声で、ご隠居が僕に話しかけてきました(汗)
爺さんの隣がカミさん、その隣に息子が座ってます。
「え、あ、はい、どうもありがとうございます」と咄嗟のことに動揺しつつ返します。
(この爺さん、隣にカミさんが座ってるにもかかわらず、さらにその隣の、通常では見えない位置にいるはずの息子を観察していたのか。
でもどうやって?
あ!
ここに移動してくる前から観てたのか。確かに、ここに移ってくる前の席からは息子の顔がみえたはずだ)
さて、至近距離から話しかけられて、そのままではなんとなく不自然な気がしたので
「中2ですよ。携帯ばかりいじってますが」
その後、自然な流れで爺さんの孫の話や、この蕎麦屋の話などでカミさんも含めて3人で盛り上がる。
が、
(もしかして俺たちが爺さんの酒の肴になってる可能性が。。汗)
ここで僕らは〆のそばをオーダー。僕は大ざるである。
あと3人でシェアするために天ぷらを別盛りで。
するとそれを聞いた爺さん、すかさず
「この店には裏メニューがあるんだよ」と。
「メニューに出てないメニューのほうが本当は多いんだ」
(もしや爺さんのイクラおろしもそのひとつか?)
「へー、そうなんですか?」と反応するや、
「よし、俺が旦那にご馳走しようじゃないか」(旦那=僕)
まさかそんな見ず知らずの人からおごってもらう筋合いもなく、
「え、ええ!いえいえ結構です。初めてお目にかかる人からご馳走だなんて」
爺さんはそれには応えず、背後に立っている店員の、見た目50代後半のおばちゃんに
「お嬢!三つ葉吸いと鳥わさ!」(お、お嬢。。。汗)
と、店内に太く響き渡る声でオーダー。
鳥わさはメニューにあったような気がしたが、この三つ葉吸いというのは裏メニューで、三つ葉を散らしたお吸いもののことだ。
そしてその三つ葉吸いと鳥わさが来た。
「この三つ葉吸いにそばをつけて食べるんだ、ほら食べてごらん」
とその吸い物を僕のほうに差し出す。
わかりました、と遠慮がちに蕎麦を5、6本、箸ですくって吸い物にダイレクトにつけて食す。
ズルズル
ぶっちゃけ薄味か?まあ、お吸い物だからな。。
「どうだ?美味いだろう?」と爺さん
「あ、はい、美味しいです。」と返す。
(この状況では美味いとしか答えられないのは皆さんも推測できよう)
続いて、
「実はな、この鳥わさを三つ葉吸いにぶちこむんだ」と言うや、鳥わさを新しい箸を使ってドバドバっと僕が持つ、三つ葉吸いの椀にダイレクトにいれた!
(おお!なんとアグレッシブな。。)
一瞬で透明色の三つ葉吸いの汁がにごる。
「よし、これでいい。はい、もう一度蕎麦をこれで食べてごらん。」
「は、はい。。」ともう一度、箸で蕎麦を控えめにすくおうとしたら
「違う!そうじゃなく、ガバっとやるんだ、ガバっと」
(この時かなり声がでかい。)
「ガバっと。。こんな感じですか」とかなりの量の蕎麦を箸でつかみそのままガバっと鳥わさが浸しこまれた三つ葉吸いに投入。
その昔「ガバチョ!」というサイト作成ツールを作りテーマソングまで作曲した僕は「ガバ」に関しては負けられないことをその爺さんは知る由もない。
ガバっと掴んで、チョーっと投入!!
そしてズルズルと鶏肉を一、二切れ一緒に蕎麦と口に含む。
(うん、これは美味い!)
「そうだ、そうやって食うんだ」と爺さん。
で結局その後も話しながら、「ご馳走」を全部頂いたのであった(笑)
その間には
「あー、これは変なことを教えちゃったな、まあ、銀座で遊ぶのもいいけど、こういう店で裏メニューを楽しむのも、面白い。でも逆に高くつくかもな、あはははは」
僕がなにかの拍子に「うちのカミさんは」というと、
「カミさんっていい言葉だよな。家ではカミさんを大切にすること。その代わり外ではおもいっきり遊ぶこと。わははは」
と隣にそのカミさんが座っているのにもかかわらず豪語(汗)
でもこの爺さんの正体はどんな人なんだろう。
「このお店は頻繁に使われるんですか?」と聞くと
「それほどでもないけど、いや、まあ、俺んちは近いからね。2、3日に1回かな」
(かなり頻繁じゃん)
「おい、旦那、車じゃないだろうね?」
「いえ、歩きです」
「俺の仲間は何人も酒と車で大失敗してるんだ」
と、もう話の行先は不明。
ということで蕎麦を全部食べたのを節目に、ご馳走さまでした、とお礼を述べ、店を出たのであった。
外は雨が降っています。
店を出た後、しまった、爺さんにお銚子一本をお返しすべきだった!
と思ったが、それも面倒なのでそのまま歩いて帰りました。
ご隠居の正体は当然、未だ分かりません。。
以前、葛西のゴルフ練習場でいつも運転手兼執事めいた人を連れてくる初老の爺さんがいた。毎回、トヨタセンチュリーで運転手付きで来ていた。
ある週末などはロールスロイス・ファントムで来ていたこともあった。運転手付きで。
たまたま帰りのタイミングが一緒だったので、携帯でセンチュリーの写真を撮りながら、注意深く後ろを走っていたら、方向が一緒。
レインボーブリッジを抜けて浜崎橋から首都高環状線へ。
僕と一緒の首都高飯倉ICで降り、自宅がご近所さんであることが分かった。
さらに別の日、その爺さんのキャディバッグのネームタグをみて、名前を記憶。自宅に帰って検索したら。。
僕が借りているオフィスの不動産仲介会社Kのオーナーでした。業界では超有名人で僕の大学(早稲田)の先輩でした。
(※今はすでにお亡くなりになりました)
都心の高級賃貸に住む人は全員その会社の名前を知っています。
今回の蕎麦屋の爺さんはどんな経歴があるか分かりませんが次回もしお会いすることがあったらたっぷりとお返しをしたく思います。
おそらくこの爺さんはかなりお金には余裕があると思います。
一人できておそらく1万円くらい使っていくんだろうな。。
雨降る午後に。。
(ここまで)
この話は2012年6月の話です。
今のような新型コロナウイルスで緊急事態宣言やら外出自粛などなかった平和な時代です。
この爺さん、当時おそらく70代後半くらいだからもしかしたら亡くなってるかもしれません。
伊丹十三「タンポポ」を見るきっかけとなった電動歯ブラシの記事はこちら
(終)